全国にはたくさんの素敵な美術館がござます。
本日はその素敵な美術館の紹介となります。
東山魁夷館がある事でも有名な長野県立美術館・長野市に行かれる事があれば是非ご体感ください!
東山魁夷も愛した信州
その自然の中で感じるアート体験
人と自然とアートをゆるやかにつなげる長野県立美術館(長野県長野市、善光寺東隣)
長野県立美術館 外観(画像提供:長野県立美術館)
長野市にある国宝・善光寺。その本堂の東側に位置する城山公園内に、長野県立美術館 はある。善光寺本堂の脇を抜けて境内を出ると、大きなガラス張りの窓の建物が目に飛び込んでくる。青い空と緑の芝生の間で、ひと際存在感があるが、洗練されたシルエットが雄大な自然に溶け込み、一目見て心地よさを感じる。
コンセプトは、周囲の景観に溶け込む「ランドスケープ・ミュージアム」
展示室に入る前に、美術館の歴史と、印象的な本館の建築を紹介しよう。長野県立美術館は、1966年に財団法人信濃美術館として開館し、69年に長野県へ移管されて以来、信州における唯一の県立美術館として親しまれてきた。2016年に全面改修の基本構想を発表、建築家・宮崎浩(プランツアソシエイツ)の設計により2020年に現在の本館が完成した。そして2021年4月のリニューアルオープンを機に、名称を「長野県立美術館」に改め、新たなスタートを切った。
屋上広場「風テラス」(画像提供:長野県立美術館)
本館の屋上がテラスになっており、そこから善光寺の本堂も見える。カフェで注文したメニューを食べることも可能
本館のコンセプトは「ランドスケープ・ミュージアム」。周囲の景観に溶け込むように設計されており、広いエントランスや開放的な屋上広場「風テラス」は、美術館の内と外を緩やかにつなげる。
水辺テラス(画像提供:長野県立美術館)
また本館と、後述する「東山魁夷館」の間にある「水辺テラス」では、アーティスト・中谷芙二子(1933-)「霧の彫刻」が1時間に1回出現する。テラス全体が一気に霧に包まれると、霧はその日の天気や気温、風の強さ、周囲の状況で次々と変化し、幻想的な空間となる。自然と建築(人工物)の間で、霧がすべてを曖昧にすることで、日常をほんの少し“非日常”に変える。すると、今まで当然のように見ていた景色も違って見えてくる。取材時、勢いよく出てくる霧にはしゃぐ子どもたちが微笑ましく、また大人たちも、特別な体験に心を躍らせている様子が見られた。
画家本人から寄贈されたコレクション等による「東山魁夷館」
東山魁夷館 外観(画像提供:長野県立美術館)
さて長野県立美術館には、信州の風景をこよなく愛した日本画家・東山魁夷(1908-1999)の作品、資料を展示する「東山魁夷館」(1990年開館)も併設されている。画家本人から作品・スケッチなどが長野県に寄贈されたことが機縁となって建設された。《白馬の森》をはじめとする本制作約30点、各地を旅行した際のスケッチ、《唐招提寺御影堂障壁画》の下絵など、収蔵作品は現在、貴重な作品970点余りに及ぶ。
東山魁夷館 ロビー風景
ガラス張りの窓から外を見れば、周囲の木々が水盤の表面に映り、東山魁夷の世界を思わせる水鏡の光景が広がる
東山魁夷館では、1年間を5期に分け、様々なテーマで東山芸術とその業績を紹介する。取材時は、「東山魁夷館コレクション2025 第Ⅰ期」(2025年5月1日~7月21日)が開催中で、《唐招提寺御影堂障壁画》の準備作から、3回にわたり行った中国での取材中に描いた水墨によるスケッチなどが展示されていた。
東山魁夷館 展示風景
《唐招提寺御影堂障壁画》の準備作は、唐招提寺を開いた鑑真和上が見たかったであろう日本の風景をテーマに、山林や海を描いた風景画を展示
東山魁夷館 展示風景
東山魁夷館 展示風景
学芸員の北泉剛史氏に話を伺うと、「当館では、東山魁夷の生前に本人から寄贈された多くの下図・スケッチを所蔵しています。東山魁夷は、完成した作品を本制作と呼んでいましたが、こうした下図類にこそ、本制作に至るまでの画家の息遣い、制作に対する姿勢が感じられます。また、制作の過程から構図や配色などの試行錯誤の跡が見られますので、このような側面からも作品の魅力を感じてほしい」と語る。
今回多く展示されていた中国を取材した水墨のスケッチ。「東山魁夷は、水墨画には高い精神性があり、いずれ描いてみたいという憧れを持っていました。この唐招提寺御影堂障壁画第二期の制作において、ついに本格的に取り組む機会が来たと感じ、水墨画を描いた」という。作品を観ると、スケッチということもありサラリと描かれているが、1点1点じっくり観ると、絵によってタッチも異なり、水墨の表現をさまざまに試していた様子がうかがえる。
《黄山雨過》は、「そうした水墨表現を自身の芸術の中で昇華した結実」とも言える作品だ。本作では、群青(日本画における青色の顔料)を焼いて暗い青色を作り出し、水墨画さながらの情景を生み出した。「水墨でのスケッチの経験から、岩絵の具で水墨のようなモノトーンの世界を表現する。それが東山魁夷がたどり着いた、東山ならではの水墨の表現だったと言えます」(北泉氏)。
同館には、絶筆となった《夕星》(1999年)が所蔵され、5月6日の画家の命日に合わせ、5月の時期に展示しているという。91歳のときに描かれたその絵は現在、その下絵とともに展示されている。
2階の展示室から1階に降りると、東山魁夷の制作道具や、制作時に聞いていたというレコードが展示されている(上画像2点)
洗練されたシルエットの建築は、時に訪れた人に緊張感をもたらすこともあるが、長野県立美術館は居心地の良い雰囲気に溢れている。大きな窓からは公園の木々、広い空、思い思いに過ごす人たちの姿を見ることができ、美術館(展示室)の中を歩いていても、まるで自然の中を散策するような気分だった。大自然の中で、ゆったりとアートと出会う、そんな特別な時間を味わいたい。
長野県立美術館 外観(画像提供:長野県立美術館)